中国市場の真相 縮む日本
伸びる中国マーケットは救世主となるのか?
はじめに
2012年9月に発生した反日デモは過去最大規模となり、日系企業の工場や日系自動車会社の販売店などが破壊や放火され、その後の操業が困難になった。
小売業でも、本書にも事例掲載している湖南省長沙の平和堂、山東省青島のイオン、江蘇省蘇州の泉屋百貨など大規模な破壊と略奪行為に晒され大きな被害を受けた。
今回の反日デモの背景にはチャイナセブンと呼ばれる共産党政治局常務委員や、政治局委員人事を巡る壮絶な権力闘争が大きく影響している。
通常大きな政策課題や人事に関しては、避暑地でもある北戴河での会議で決定するといわれている。
しかし毛沢東、鄧小平といったカリスマ指導者が居ない中、今後10年の政治体制を決める人事は混沌を極め、反日デモは政争の具として使われたふしがある。
日本国内では中国の崩壊やチャイナリスクといった雑誌や書籍が出版され、今にも全ての日系企業が中国市場から脱出しなければいけないような錯覚に陥る。
しかしそうであろうか?90年までであれば中国という国の体制がどう変化しようが、ビジネス上の影響はほとんど無かっただろう。
世界第2位の経済大国となり、世界の工場から巨大な市場と化している今日において、中国問題は世界の問題でもあり簡単に無くなるわけではない。
今後も様々な問題の発生や体制変化の可能性はあるが、到底無視出来る存在ではない。確かに今後も二桁の成長率を望むことは難しいだろう。
昨年発表された第12次5カ年計画ではGDP伸び率は7.5%に設定された。しかし、これだけの規模で更に成長する市場は世界中どこを探してもない。
中国は国内安定のためには経済成長は絶対必要である。
従来の中国の主な成長エンジンは、1.外国資本投資と貿易収支。2.国内インフラ整備。3.不動産投資。であったが、人件費の高騰、資源輸入の増加と高騰、ユーロ危機や元高による貿易黒字の減少、住宅投資の減速などの影響で経済成長にかげりが見えてきている。
中国政府は成長を維持するために、重要な成長エンジンとして内需拡大を促進する施策を打ち出してくると考えられる。
それに呼応するように、中国政府は2012年2月に2015年までの5カ年計画で、最低賃金を毎年13%引き上げる方針を打ち出している。
実に5年で2倍近くに上昇することになる。
労働集約型の生産地としての魅力は低下しても、市場としての魅力は増加の一途である。翻って日本は本格的な少子高齢化社会に突入し、市場の大幅な変化とともに徐々に人口は減少し市場規模は縮小していく。
日本国内で一定以上のシェアを持つ企業にとって、今後も中国市場での成功は重要な経営課題となるだろう。
しかも日本企業は地の利を生かすことが出来るのである。
中国で駐在する日本人は、本社になかなか実情を理解してもらえない中で奮闘を続けている。
また進出しても中国事情を知らないために、失敗するケースも散見される。
本書はこのような環境下において、既に中国市場に進出している企業やこれから進出する企業にとって、中国市場での成功の一助となればとの思いから認めたものである。
支援する日本サイドやこれから中国市場へチャレンジしようする企業にとって、中国市場の概要を理解し中国の消費者満足を実現するために何が必要か?どうすれば成功することが出来るのか?という中国事業構築のヒントになれば幸いである。
序章 習近平体制の発足と課題
新たな政治局常務委員(チャイナセブン)が決定/習近平体制が抱える国内問題/拡大し続ける中国消費市場と少子高齢化が本格化する日本
第一章 現代中国市場を読み解くキーワード
- 中国市場は昭和40年代と平成25年の同居
- 昭和40年代後半の日本と同様に旺盛な消費意欲/有名な高級ブランド品は良いもの/合理的なら世界中からやって来る最新モデルが普及する中国
- 中国は省が違えば別の国
- 広い中国は一つではない/共通語「普通語」の普及率は50%強/地域特性をよく理解すること
- 都市によって発展状況が違う
- 発展状況はさまざまな中国/先に発展したエリアは競争激化の様相
- 大量にやって来る中国人旅行者が伝播者
- 日本にやって来る旅行者は選ばれた人/ますます増加する観光客/旅行者の日本評価は総じて高い
- トラブルの多くは誤解から
- だまされたか、だまされたようなものか?/通訳は簡単に信用してはいけない/日本語堪能な中国人に気をつけろ
- あふれる中国情報は、いつのどこの誰の話か?が大事
- 情報を吟味する姿勢が大事/にわか中国通に気をつけろ
- 中国は戦国時代!群雄割拠の下克上であることを知る
- 戦国大名になりたい中国人/下克上は当たり前/進出するならまず商標登録
- 内政安定と成長性維持のため内需進行は喫緊課題
- 新体制の政策に注目/外資流通業の進出エリアとなっていく内陸主要都市/伸張する日本の対中直接投資
- 共産党大会や全人代の宣言を熟読する
- 中国は人治主義の国/共産党大会や全人代宣言は熟読を!
第二章 中国流通業の特徴
- 流通業の外資開放の流れ
- 配給担当だった小売業/長らく規制されてきた小売業/WTO加盟による外資開放政策の加速/全国規模の企業はまだ少ない/外資流通参入の歴史
- 大型流通業者、百貨店やハイパーマーケットは基本的に場貸し業
- 商業施設は新たな不動産業/中国の大型流通業は場貸し業である/氾濫するリベート
- 無秩序に激増する商業施設は資金力のあるチェーンの集積。都会は同質化
- 強いブランドが大量に出店できるわけ/中国全土をカバーする代理商の存在/同質化する商業施設
- 大型店であっても新規店が売れ出すまでに相当時間がかかる
- 中国の商業施設はソフトオープンが普通/出店契約条件は慎重に
- 館そのものは豪華だが、運営ノウハウや接客等はまだまだこれからの課題
- 運営ノウハウはまだまだ稚拙/稚拙な卸機能と脆弱な物流体制/競合激化の中での顧客の囲い込みが鍵
- 2011年の中国小売市場
- 2011年中国小売りランキング/内陸部で展開する企業が躍進/上位ランキング企業の概要/外資小売業売上げランキング20/外資参入の歴史と企業数/景気減退と急速な競合激化/きめ細やかな対応が必要になってくる中国市場
第三章 中国進出企業失敗の理由
- マーケットリサーチが不十分 市場を理解していない
- 驚くほど中国市場の実態を把握していない失敗企業/相手任せの物件開発は失敗の元!/顧客ニーズを理解するためにごみ箱あさりをした成都ヨーカ堂/丹念な市場リサーチを重ねて成功したイオリ
- 現地に決定権がなく、決裁に時間がかかり過ぎ、好機を逃している
- 決定の遅さで好機を逃している/中国人にあきれられる決定権のなさ/決定権のない総経理にマネジメントはできない
- 中国市場に即した商品開発がなされていない 調達背景に理解がない
- 日本の良い商品を持って行けば売れるはずという間違い/笑えない撤退理由
- 人事管理やオペレーションなどで日本式を押し付けようとする
- 日本のルールは通用しないと考える/なぜしないといけないかを説明しないとその通りしない中国人/罰金を取る方が公平感がある中国
- 中国人幹部が登用されにくい。他の外資と比較して処遇が悪い
- 日系企業に入ったら本社役員にはなれない/日系企業はステップアップの通過点/安定した人材確保は優秀な既婚女性
- 中国に対して“上から目線”の企業が多い
- あなたの“上から目線”を相手は見ています/礼儀を尽くさないには日本人?/日本駐在員の現地化が一番大切
第四章 成功するための7つのキーワード
- 新たなライフスタイルに対応する商品提案
- シニアゾーンのニーズを捉えろ!
- 安心・安全・エコ・余暇・教育キーワードで新規需要を掘り起こせ!
- これから本格発展の内陸部の中核都市を狙え!
- 昭和50年以降の日本社会の変遷から再考せよ!
- 旅行者が何を買っているかは重要なヒント
- 情宣活動の巧詐が生死を分ける
第五章 中国人を知る
- 現代中国人の気質
- 全く違う日本人と中国人/円満な交渉を望む日本人ともめることを厭わない中国人/楽天的で自信家の中国人/お上主義で「みんな」が好きな日本人と自分のことは自分で守らなければならない中国人/約束を守らない日本人?
- 中国人の面子とは何か?
- 面子の背景/ますます大事な面子/面子は中国語のイエス・ノーの語源でもある
- 仕事をする上で知っておくべき中国人の面子
- 人前で叱るのは面子を潰す行為/知らないとは言わない中国人/ごちそうさまは何度も言わない/割り勘という考え方はない/食べ切れないほど注文するのも面子/政府も面子が大事/自分の面子が立ったことに感謝する中国人
- 中国人の人間関係
- 中国人は簡単に人を信用しない/中国人の付き合い方
第六章 チャイナリスク
過去最大の反日デモ/その他のチャイナリスク
第七章 企業事例
- 味千ラーメン(重光産業)
- メニューも含めた店舗形態を現地のニーズに合わせて成功
- イオリ
- 日本式のVMDと接客が開いた中国市場100店舗への道
- イオン
- 中国・ASEAN市場で2020年までに売上げ4兆円目指す
- イトーヨーカ堂
- 苦節6年で黒字転換、経営利益率6%の高収益企業へ
- イズミヤ
- 施設面の遅れでスロースタート、高い伸び率と修正力に期待
- スーパー「しんせん館」
- 中国市場躍進の秘密は激しい変化に即した運営体制
- セブン-イレブン
- 急速開発都市・成都で、セブンの中国ベーシックを築く
- 日本レストランシステム/イートアンド
- 「日本発」の“麺”を中国で支持されるオリジナルブランドに
- ハニーズ
- 日本企画の商品が高く支持され順調な出店を継続
- ファミリーマート
- 中国市場を制し、アジアNo.1のコンビニチェーンを目指す
- 平和堂
- 反日デモで甚大な被害を受けるも湖南省でドミナント形成を目指す
- 丸紅
- 卸不在の市場に中間流通の定着を目指す
- ユニクロ
- “世界成長センター”で勝負に出た日本初SPAの挫折と野望
- 良品計画
- ブランド侵害はねのけ進出、2013年度には100店態勢に
- 伊藤忠ファッションシステム
- 当初の失敗経験が強みとなって堅実なサポート
- 日中経済貿易センター
- 日本で開催される中国展への協力
まとめ 成功するためのポイント
中国で成功している企業の共通点/進出事業計画を立てるには/最後に
おわりに
同じ漢字を使い同じような姿や風習を持つ中国であるが故に、その違いを理解することが難しい。
利に聡く拝金的な行動も日本人には受け容れ難いと感じる事もしばしばである。歴史的に為政者から様々な迫害を受けてきた中国人は、自分の事は自分で守るという意識が非常に高くなかなか人を信用しない。
しかし、それが故に信頼関係ができあがると、日本人では考えられないぐらい義理堅いのも中国人の特徴である。
反日デモに遭い大変な被害を受けた日系小売業も、地元政府との良い関係を作っていた企業は、その後、様々な配慮を受けているとも聴く。
また、襲撃を受けても素早い営業再開を行い礼賛されたとの報もある。
今まで一本調子に成長を続けてきた中国市場において、儲かるとなれば猛烈な勢いで市場が飽和、供給過剰の様相となり、小売市場も競争が激化し始めている。
顧客を考えず私利私欲にまみれる企業の整理淘汰も進むだろう。消費者の選択眼もどんどん高度化する。中国市場の外見は新しく発展していても、オペレーションやサービスという意味ではまだまだこれからである。
今後更に拡大する中国内販市場において、日本企業のきめ細やかな管理技術やものつくりがきっと奏功すると思われる。中国市場で成功するためには全社挙げて市場の理解と支援体制を組むことが必須である。本書がその一助となれば望外の喜びである。
また、「中国市場の真相」上梓に当たって著作の機会を与えて下さった株式会社商業界の中嶋正樹社長、編集を携わっていただいた杤木豊部長、中国人の気質や市場特性など趣旨に賛同し真摯な態度でアドバイスをくれた薛江先生、陳文勝先生、鐘鳴先生、黄海楓先生、金向京女士、姚平一女士、原田蘭英女士、中川秀樹氏、制作を手伝ってくれた上村亜古さんに深謝申し上げます。
また、多面的に中国情勢をご指導いただいている我が生涯の師である泉和幸先生に、紙面をお借りし心より御礼申し上げます。
最後までお付き合い下さり有り難うございました。読者の皆様の中国市場での成功を心より祈念申し上げます。